シドニーオペラハウス

この原稿は東京大学の清家剛先生に依るPCSA広報誌(2002年25号)にご執筆頂いた原稿を当時のまま掲載しております。所属・肩書き等も当時のままです。

東京大学大学院 新領域創成科学研究科 環境学専攻 助教授・博士(工学)

清家 剛

みなさん「ミッションインポシブル」という映画をご存じだろうか。あの昔懐かしいテレビドラマ「スパイ大作戦」の映画版である。映画ではトム・クルーズが主人公のイーサン・ハントを演じてストーリーが展開する。第1作ではプラハを発端に、アメリカのスパイ組織IMF本部、ロンドンと舞台を変えて物語は展開する。「Mission Impossible 2」というタイトルのシリーズ第2作では、シドニーを舞台に物語が進む。有名なスパイとしての指令がくだされるシーンでは、アメリカのどこかでフリー・ロッククライミング中のイーサンのそばに小型のロケット弾が打ち込まれ、そこから取り出したサングラスをかけると指令が映し出される。そしてあの「例によって君もしくは君の仲間が敵に捉えられ、あるいは殺されても当局はいっさい関知しない。」というくだりがあって、サングラスを投げると、それが地面に着く前に燃えつきるというものである。

さて、この映画の舞台はそこからスペインに飛び、そしてシドニーを中心に展開する。主人公イーサンはシドニー都心のバイオサイト製薬会社に進入するため、本社超高層ビルの上から、建物の中の最上階から42階までつながっている光庭の底に向かって、ヘリコプターからケーブルを使ってダイブするという設定。この超高層、実在するガバナー・フィリップ・タワー(1995年・DCM設計)という建物で、「玉子スライサー」と呼ばれる建物頂部の特徴的なデザインが有名なオフィスビルです。頂部デザインは確かに映画に使いたくなるようなビルですが、図面を見る限りは光庭はなく、センターコアタイプで真ん中にエレベーターがあるようです。頂部のデザインは残念ながら下からでは撮影できませんので、遠景で御確認を。(写真1)映画を見ると、もっとよくわかりますよ。

さて、この映画のオープニングには、当然のようにシドニーオペラハウスの空撮が使われています。有名なシドニーハーバーブリッジからシドニーオペラハウスに向かっての撮影、おそらくみなさん何度も見たことのある映像です。エンディングも然りで、ハーバーブリッジとオペラハウスが両方画面に入って映画が終わる。ところが、このシドニーオペラハウス、オープニングとエンディングで大々的に使われているにもかかわらず、全くストーリーの中では関係ないのです。まるでシドニーを表す記号のように使われているんです。もっと使って欲しいなあ。

シドニーオペラハウスは、20世紀を代表する名建築の一つですが、殆どプレキャストコンクリートでできている巨大な建物でもあります。(写真2,3,4)この素晴らしい建物は、実に20年近い歳月をかけて紆余曲折の後に完成しました。1957年の国際設計競技の結果、北欧の建築家ヨルン・ウッツォンの案が当選しました。海を帆走するヨットを連想させる貝殻状の大屋根が重なり合い、海に向かって突き出した岬に彫刻のような造形で作られた案は、応募案の中で最も優れたものだったそうです。この案を実現するにあたってはシェル・ボールトで構成した構造を、実際にどのようにまとめるかということが最大の問題であり、構造設計をロンドンのアラップに依頼しました。[続きを読む]

 
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