エニス邸のテキスタイルブロック

この原稿は東京大学の清家剛先生に依るPCSA広報誌(2002年24号)にご執筆頂いた原稿を当時のまま掲載しております。所属・肩書き等も当時のままです。

東京大学大学院 新領域創成科学研究科 環境学専攻 助教授・博士(工学)

清家 剛

みなさん「ブレードランナー」という映画をご存じだろうか。2019年11月のロサンゼルスを舞台に、4年という短い寿命を延ばすために人間に反旗を翻した人間そっくりのレプリカントと、彼らを人間と見分けて倒すことが職業であるブレードランナーが戦う映画である。(いささか省略しすぎの紹介だが。)主人公のブレードランナー・デッカードをハリソン・フォードが演じて1984年に公開されたこの近未来映画には、ロサンゼルスの実際の建物が結構使われているのである。

戦闘用レプリカント、ロイ・バティ-との最後の戦いのシーンは、この映画の中で最も印象的な場面である。その戦いの場となったのは、J.F.セバスチャンという登場人物の自宅のあるブラッドベリーアパートである。そこにはトップライトから降り注ぐ妖しい光線に満たされた吹き抜け空間があり、中をエレベ-タ-がゆっくりと上昇して最上階に着くと、そこにセバスチャンの部屋があるという設定だった。ここにいたレプリカントとデッカードは戦うのだが、この幻想的な空間のアパートは、名前もそのままブラッドベリービルとして実在している建物なのである。

1893年、なんと100年以上も前に建てられたブラッドベリービルは、治安のあまり良くない(少なくとも私が訪問した1990年代半ばには良くなかった。)ダウンタウンにあり、外観はレンガと砂岩でできている、地上5階建ての一見普通のオフィスビルである。しかし、ひとたび中にはいると、その印象的なアトリウムが人々を感動させる。ガラスの大きなトップライトから取り入れられた明るい光が、上階にいくと少し広くなるとても心地よいスケールのアトリウムを貫く。手摺りやエレベーターシャフトは、フランス製の繊細な細工が美しい見事な鉄によって構成されている。(写真・)何でもシカゴの博覧会で使用されたものを使ったらしい。階段の段板はベルギー産の大理石で、やわらかな色合いを醸し出している。1969年に大修復され、現在もその美しい姿が維持されているこの建物は、実は1887年に出版されたエドワード・ベラミーの2000年から1887年を顧みる空想未来小説「顧りみれば」(原題:Looking Backward、昭和28年岩波文庫、山本政喜訳)に描かれた建物をイメージしてつくられたというのだ。[続きを読む]

 
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